昌史さんは出社後も、どうも気持ちがすっきりしません。
モヤモヤとした思いを抱えながら、午前中の会議で使う資料の準備に追われていると、後輩の小野さんがやってきました。
「何かお手伝いすること、ありますか?」
「助かるよ。とりあえずこの資料のコピーだけ、お願い」
そう言って資料を手渡すと、10人分のコピーをするように頼みました。
15分ほどすると、小野さんが資料の束を抱えて帰ってきました。
「ありがとう。……あれっ、ホチキス留めまでしちゃったの? 『とりあえずコピーだけ』って言ったのに」
「はい、ついでにやっておいたんですけど……。もしかして、綴じないほうがよかったですか?」
「最後の1枚は会議が終わるときに回収するから、これだけ抜いて綴じる予定だったんだ……。はっきり分かるように言わなかった僕も悪かったけど、綴じる前に、ひと声掛けてほしかったな」
「すみません。いつもどおりだと思い込んで……。すぐに外します」
「いいよ。あとは自分でやるから」
昌史さんがそう言うと、小野さんはもう一度謝り、しゅんとして自分の席に戻っていきました。昌史さんは紙を破らないように注意しながら、1つ1つホチキスの針を抜き、綴じ直さなければなりませんでした。